”接触冷感”とは
人が物に触れた時に「冷たい」と感じる感覚を接触冷感と呼びます。
接触冷感製品
繊維業界で高機能製品の開発が激化、接触冷感を取り入れた製品が数多く販売されています。
例)布団、シーツ、夏用下着、スポーツウェア、タオル…etc.
2020年6月現在、新型コロナウイルス(COVIT19)対策に関連して、”接触冷感マスク”も販売されています。
夏場にマスクを付けることを考えると、”接触冷感素材”でできたマスクはより快適かもしれません。
接触冷感製品の曖昧さ
現在国内で販売されている接触冷感製品は、「どれだけ冷たいのか」がはっきりしていません。
例えば、自動車は「燃費がいいです!」とアピールしたいとき、「燃費が○○㎞/ℓ」と”指標となる数値”を表記します。
消費者はこの数値で製品を比較しています。
接触冷感の指標となる数値は「最大瞬間熱流束 qmax(キューマックス)」といいます。
しかし、計測方法がメーカー・研究機関によって異なるため、製品の比較に用いることができません。
接触冷感製品の開発が盛んな中国では、GB規格(中国国家基準)にて「qmaxの計測方法」が規定されてます。
※規格番号 GB/T35263-2017
日本では、現在JIS規格の制定が進められています。
日本では、2020年2月に接触冷感試験についてのJIS規格【JIS L 1927】が制定されました。
※弊社製品THERMOFEELはJIS試験、GB試験ともに対応しております。
最大瞬間熱流束 qmax(キューマックス)
接触冷感は、人の感覚をセンサーに置き換えて計測します。
センサーの温度変化を取込み、以下のように計算してqmaxを算出します。
つまり、
q=温度変化の時間微分 ≒ 「瞬間的に吸取られる熱量の大きさ」 という事です。
qmaxはqの最大値なので、
計測した結果が
qmaxが大きい⇒ 瞬間的にたくさん熱量を吸取られる⇒ 接触冷感性能が高い。
qmaxが小さい⇒ 瞬間的にすこしの熱量を吸取られる⇒ 接触冷感性能が低い。
となります。
qmax単位は「W/㎠」「W/㎥sec」「J/㎠sec」などがありますが、同じ意味です。
JISでは「W/㎠」が採用されています。
※単位のなかにある”面積当たり”を意味する㎥や㎠が違う場合はケタの換算が必要です。
一番だいじな試験条件 ”ΔT(デルタティー)”
qmaxはサンプル(試験対象)にセンサーを接触させて計測します。
この時に重要なのが、”ΔT”という試験条件です。
代表的な設定値は”ΔT=10℃”、”ΔT=15℃”、”ΔT=20℃”が挙げられます。
主に、下図のように使い分けられています。
※JIS規格、GB規格については規定されていますが、その他は例外もございます。
※弊社製品THERMOFEELは ΔT=10.0℃/15.0℃/20.0℃ 全てに対応しております。
ΔT(℃) =センサー温度(℃) - サンプル温度(℃)
と計算します。接触させる直前の、センサーとサンプルの温度差のことです。
接触冷感は、人の感覚をセンサーに置き換えて計測します。
ですので、試験条件としては”人がサンプルに触れる”ときの再現をします。
代表的な値として
センサー温度 = 30.0℃(人の皮膚表面の温度の再現)
サンプル温度 = 20.0℃(外気にさらされた服の再現)
と設定したとします。
この2つの値から、
30.0℃ - 20.0℃ =10.0℃ つまり ”ΔT=10℃” となります。
これが最も基本的な試験条件です。
※接触冷感試験の基礎研究や論文では、多数がこの設定値です。
上記にセンサーの温度変化からqmaxを求める計算式がありますが、そこに用いる値の1つがΔTです。
説明のため、計算式を簡単に書き直すと以下のようになります。
q = ΔT × (センサーの熱特性値や時間微分の計算 等々)
ΔTの値は、掛け算として計算式に入っています。
つまり、
同じサンプルの試験でも
”ΔT が XX倍になれば、計測結果qmax もXX倍になる”
という事です。
”ΔT10.0℃の試験結果”と”ΔT=20.0℃の試験結果”を直接比較することはできません。2つを同じ条件に換算して考える必要があります。
“qmaxが1.50の製品A(ΔT=10.0℃)” と ”qmaxが2.00の製品B(ΔT=20.0℃)” を比較するとします。
Bのほうがより接触冷感機能の高いものに思えますが、ΔTが違うので、まず以下のように換算します。
製品B qmax:2.00(ΔT=20.0℃) → qmax と ΔT を両方に×0.5 → 製品B qmax:1.00(ΔT=10.0℃)
これでΔTがそろいました。
AとBを比較しましょう。
製品A qmax:1.50(ΔT=10.0℃)
製品B qmax:1.00(ΔT=10.0℃)※換算値
実際は、製品Aの方が接触冷感機能の高いものと分かります。
ここで、もし”ΔT=10℃”としながら実際の試験が間違えていた場合を考えてみます。
ΔT=10.0℃ = センサー30.0℃ - サンプル20.0℃と思って試験をしたときのことです。
部屋の温度が21.5℃だったため、知らない間にサンプルの温度が21.0℃になっていたとしましょう。
その場合、
ΔT=9.0℃ = センサー30.0℃ - サンプル21.0℃
となってしまいます。
ΔT=10.0℃の試験はずが、ΔT=9.0℃の試験結果=qmaxが算出されてしまいます。
つまり、
ΔTが ”10%低い” 試験をしたことになるので、qmaxも本来の値よりも”10%低い”値が算出されたことになります。
せっかく接触冷感を数値化しても、10%の誤差となると”指標となる数値”に使うには信頼できません。
サンプルとセンサーの温度を正確に制御・測定できる”接触冷感試験機”だからこそ、信頼できる試験結果を算出することができます。
接触冷感試験にとって”ΔT”がいかに重要であるか、理解していただけたでしょうか。
JIS L 1927:2020 繊維製品の接触冷感性評価方法
2020年2月、接触冷感の試験方法がJISで制定されました。